徒然草(つれづれぐさ)

かの兼好法師(けんこうほうし)が徒然草(つれづれぐさ)でこんなことを言っています。

「一切の有情(うじょう)を見て、慈悲の心なからんは、人倫(じんりん)にあらず」と。

意味はこんな感じです。「すべての生き物を見て、情けの心が分からないならば人間ではない」と。

ぼくの好きな文化人類学者の中沢新一(なかざわしんいち)先生は、若いころネパールでさまざまな修行を受けました。

ある修行の話です。一週間暗室に閉じこもり、修行を終えて小屋から出ます。そのとき庭に光るものを見ます。なんだろうと近づいてみると、朝日を浴びるトカゲの卵だったそうです。

やわらかそうな卵のつやつやした輝きを目にしたとたん、言い知れぬ感動に襲われて涙を流したそうです。

中沢先生は、このとき「トカゲの卵たちと自分が同一の生命であり、生命は根源的に光である」と悟ります。

残念ながら、ぼくは、トカゲの卵を見ても自分の生命との同一感を味わうことができません。

言葉だけで知ったつもりになってはいけないな、と改めてぼくは思いました。